5.環境整備事業と商店街運営
(1)環境整備事業と商店街組織の役割
  ① 環境整備事業
 商店街は、地域の暮らしの場であり、商業者の活動の舞台であり、顧客と商店の出会いの場です。その環境の整備、改善が著しく遅れているため、顧客の来街動機を阻害している例は多くみられます。
  a.個性化のためのコンセプトづくり
 商店街構成員が明確な共通理念を持ち、その実現に向けて一体となって活動することが事業を成功させる大きな要因です。
b.商店街の付加価値の創出
 特定業種の集積による「業種・業態」、一店逸品などの「品揃え」、「街並景観・店舗デザイン」、「イベント」、ポイントカード、御用聞き、宅配、高齢者の買物支援、心地よい接客など、人と人の繋がりを大切にする「サービス」、「環境・人にやさしいまちづくり」、「文化」などの個性化を進め、商店街の付加価値を高めることが望まれます。
c.商店街インフラ(基盤施設)の整備
 このような空間であるためには、行政機関が行う都市基盤の整備に合わせて、各商店街が商店街の商業基盤施設の整備を行うことが必要となります。
  商業基盤施設としては、駐車場等の「来街利便施設」、カラー舗装、アーケード等の「歩行快適化施設」、ごみ処理施設等の「環境施設」、共同荷捌き施設等の「共同作業施設」、チャレンジショップ等の「商業支援施設」があります。
  ② 商店街組織の役割

 商店街のハード活動、ソフト活動、いずれの事業をとっても、個人で対応することは不可能であり、組合組織での取り組みが必要となります。
  a.組織の有効性
 組織が有効であるかどうかは、コミュニケーション、共通の目的、貢献意欲が揃っているかどうかの3要件にあるといわれています。
b.コミュニケーションによる合意形成
 コミュニケーションは、共通目的と貢献意欲の合意形成への課程です。
c.1組合員1役分担
 1組合員が必ず1つの仕事を分担し、責任を持たすことが組合員としての自覚を持つことに繋がります。
d.組織づくりのポイント
 中心となる数人が緊密な連携体制がとれるような組織であることに加え、縦に長い複雑な組織ではなく、簡潔明瞭な組織とし、1人に役割のすべてが集中しないようにしなければなりません。
e.商店街リーダーの条件として次の諸点を備えることが望まれます
  ・ロマンと責任感・まちづくりにかける情熱
・目標をまとめ具体策を策定する企画力
・即断決行の決断力と行動力
・会員能力活用型タイプ  

・先見性に富む洞察力
・高度な経営能力
・高い人生哲学
・策略のない純粋性
(2)環境整備事業と組合員の役割
 商店街の共同事業として行う環境整備事業は、ハート(気持ち)の一体性を基本に、整備が実行されねばなりません。いずれも役員を推進主体とし、組合員の連帯活動がなければ実行は不可能です。
 
(3) 環境整備事業における組合員等の権利制限と義務
 環境整備事業における組合員等の権利制限として、まちづくり協定の締結とその遵守があります。
  ① まちづくり協定の内容
   まちづくり協定の内容事項には次のようなものがあります。
 ・協定の適用範囲          ・協定を管轄する組織
 ・店舗、事業所等の新築、増改築に関する事項
 ・路面の維持、管理に関する事項  ・看板、広告に関する事項
 ・営業時間、休日等に関する事項  ・その他必要な事項  
  ② まちづくり協定をつくる際の留意事項
   ・街を構成する商店、住宅、事務所など、立場の異なる人々の意見を吸収できる組織体制
 ・関係者全員のイメージやアイデンティティについての統一した考え方
 ・意見交換の場と、全員が意見を述べる機会
 ・多くの会員や関係者の納得と理解
6.空き店舗活用と商店街運営
(1) 空き店舗活用と商店街組織の役割
  a.空き店舗対策の組織づくり
 空き店舗対策事業を行う場合、総合的かつ系統的に行う必要があり、空き店舗対策委員会等が、空き店舗問題に専ら取り組むことが有効です。
b.空き店舗情報の収集と提供
 自分の商店街の空き店舗についての情報を商店街組織として持つことは空き店舗活用の第一歩です。
c.空き店舗の運営
 空き店舗の活用に商店街組織として取り組む場合の方法は、大別して3通りが考えられます。1つは空き店舗を借りてそれを運営する方法です。1つは商店街組織自らが入店者となって運営に当たる方法です。いま1つはチャレンジショップのような形で他の入店者を募り、いわばまた貸しの形で実際の経営は他の法人なり個人に委ねるという方法です。
d.ネットワークの形成
 空き店舗の活用に当たってはこの問題に悩み、また努力もしている商店街同士がネットワークを形成することが望まれます。空き店舗についての情報を互いに交換し、入店希望者にその情報を提供することもネットワークを活用すれば効果が増大します。
e.家主に対する説得と仲立ち
 家主が過去の高値を標準として家賃を高い値段で設定している例や別に貸さなくても生活に困らず、空き店舗を貸す必要はないとする例が多くあります。これに対して商店街が積極的に説得や仲立ちすることが求められます。
f.入居者の誘致
 商店街にとってどうしても欠かせない業種や立地することが望ましい業種に入って貰うことが最良の方法です。商店街組織として欠かせない業種や望ましい業種で、しかも他の地域で実績のある人に出店してもらうよう誘致するなどの対策をとることが望まれます。
g.借主に対する支援
 商店街組織として新たな入店者(借主)に対する支援を行うことが望まれます。空き店舗が埋まり、そこで何か商売をする人があることは商店街にとっても好ましいことです。
h.商店街と空き店舗のPR
 空き店舗活用に果たす商店街組織の重要な役割の1つに商店街と空き店舗についてのPRがあります。空き店舗のPRを行うことによってより早く、よい入店者を探し出すことが可能となります。
 
(2)空き店舗活用における組合員等の権利制限と義務
  ① 組合員である地主、家主の権利制限と義務
  a.退店者、入店予定者についての報告
 組合員である地主、家主には退店が決まった人、店についてはできるだけ早く組合に届け出ることを義務づけることが望ましく、退店者についての情報を早く入手すればその対応策も早目に打ち出すことが可能となります。
b.好ましくない業種は入れない
 商店街にはそれぞれ固有の性格があり特徴があります。買回り品の物販を主体にした商店街の中に、風俗営業の店や夜型の飲食の店が入店するのは商店街全体にとって好ましくありません。
c.負担金は家主が支払うことを義務づける
 テナントが退店して空き店舗が発生すると直ちに組合費収入が減り、借入金の返済に滞りが生じる事態を避けるためには、組合費は家主や地主からも徴収することを考え、事業の借入金の返済の義務は家主にあることを組合の規約の中に明記することも考えられます。
  ② 組合員である商店主に対する権利制限と義務
  a.入店者は組合員となること
 商店街で店を経営していて環境整備事業の恩恵を受けたり、共同事業であるイベントの効果を享受しながら商店街振興組合に加入せず、組合費も払わない店が増えています。商店街で店を開く際には必ず振興組合の組合員となり、負担金を支払う義務を負うことを理解してもらわなければなりません。
b.退店の際は商店街へ届けること
 退店の際はあらかじめ商店街組合へ何月何日をもって閉店する旨を届け出ることを義務づけます。前もって退店することが分かれば商店街組織としても空き店舗の活用に対して手段を講じることができることになります。
c.同業者が入ることに反対しないこと
 空き店舗活用の際、同業種の人から同じ業種の店が入ることに対して反対されることが多くあります。 しかし同業種の店が1つの商店街に複数あって互いにその特徴を出し、品質と価格を競い合うことはお互いにプラスの効果が出るものです。
 
7.イベント等ソフト事業と商店街運営
(1)ソフト事業と商店街組織
  ① 商店街のソフト事業
   商店街におけるソフト事業は、組合員を対象とする事業と、顧客、消費者を対象とする事業に大別できます。 前者は、経営合理化、教育情報、福利厚生、維持管理、営業管理などであり、後者は、広告宣伝、販売促進、顧客管理などです。
構成員、組合員を対象とする事業
<経営合理化> コンピューターの共同利用、共通レジ・POSの導入、他
<教育情報> 従業員研修・後継者研修、組合員向け情報誌の発行、他
<福利厚生> 運動会、慰安旅行など従業員の福利厚生事業の実施、他
<維持管理> 通りの清掃、施設設備のメンテナンスの実施、街づくり協定の管理、他
<営業管理>  定休日・営業時間の統一、テナントミックスの実施、他
顧客、消費者を対象とする事業
<広告宣伝> 共同広告、統一装飾、消費者向け情報誌の発行、他
<販売促進> イベントの実施、CI作戦の実施、キャンペーンの展開、他
<顧客管理> スタンプ・カードなどの発行、顧客情報の収集・活用、他
  ② ソフト事業と商店街組織、組合員
   ソフト事業の実施に際しては、商店街組織が前面に立って推進していくことになります。
  商店街組織においては、執行部及び担当役員、または、それぞれの事業部などを設置し、事務局をもつところはその支援を受けながら分担して行います。
  ソフト事業の実施に際しては、事業の企画を立案をする“頭脳的”役割と、事業の準備、実施をする“肉体的“役割が必要となります。このうち、各機関、各所で教育研修活動が行われているため、“頭脳的”役割についてはほぼ充足できることが多いですが、“肉体的”役割については、員数を必要とすることから、どの組織でも確保に苦慮しています。たとえ、事業を行うための人数が確保できたとしても、他の事業もほぼ同じメンバーとなり、一部の組合員に過度の負担がかかることになります。
 また、ソフト事業を行う組織体制の問題とともに、事業などの費用負担についても問題化しつつあります。
  廃業などによる空き店舗の増加が商店街の構成員を減らし、運営費や事業費の確保を困難にしています。1組合員あたりの負担額が同じでも、組合員数が減少するとそれにつれて組合としてのその収入が減ってしまいます。このため、“事業賦課金”については、従来の事業を縮小して賦課金を据え置くか、従来の事業を継続して賦課金を増額するかの選択を迫られることになります。
 
(2)ソフト事業における組合員等の権利制限と義務
  ① 組合員等の権利制限

 ソフト事業における組合員は、当然ながら組合員であることによる権利制限を受けることになります。 内容としては、組合員たることの精神条項であり、遵守事項であり、きわめて厳しく権利を制限している内容とはなっておらず、明確な組合員などの権利制限が全般的に存在するとはいえません。さらに、前述のとおり、組合においては自由加入、自由脱退の原則があり、仮に過大な権利制限があったとしても、脱退すればその制限から回避できることになります。したがって、組合など加入により多大な恩典や利益を付加され、組合員としてつなぎとめる策を検討する必要があるものと考えられます。

② 組合員等の義務
 出資金を払っての正式な振興組合などの組合員において、組合員としての義務は数多くあります。しかし、権利制限の項でも述べたように、いずれも緩やかなものであり、自由脱退の抜け道があることから、“義務”として機能しないのが実態です。
  このような中で、上記のような問題点の解決を見いだすとともに、商店街を当該組合員を含む商業者の私的な施設として捉えるのではなく、中心市街地をはじめとして、公的であり、地域住民の「共有財産」であるとの認識に改める必要があります。
  商店街の役割は、地域の歴史文化を担っていることが少なくなく、既に地域社会と連携した存在であるはずです。これらの状況を踏まえて、組合員などが義務を果たし、より積極的な地域社会への関与、参加が求められます。