商店街運営の円滑化に向けて

平成12年度 全振連で行った商店街近代化研究会報告書を要約したものです。
(商店街近代化推進シリーズ46
 
1.商店街運営と権利制限・義務
(1)地域社会と商店街
 商品の造り手が消費者に伝えたいメッセージを個々の消費者に個店が的確に伝えていることや、顔馴染みとなった消費者と会話を交わす店主がいること、祭りや清掃などいろいろな地域社会の活動に住民と混じって活躍している商店関係者がいることなど、繁栄している商店街には、いくつかの共通した点があります。
a.消費者一人一人にあった商品を提供すること。
b.消費者一人一人にあったサービスを提供すること
c.消費者と商店主はともに地域住民であり、地域社会を形成していること。
d.併せて、商店街は周辺の施設、建物とともに町を形成していること。
e.商店主は地域で仕事をしていることから地域情報に詳しく、地域の活動を率先して行えること。
f.地域社会のあり方について提言し、リーダーまたは担い手になること。

  これら地域住民や地域社会と密接な関係を保つことが、大規模な商業資本が持ち得ない大きな機能といえます。
 
(2)商店街運営の意義と必要性
  ① 商店街組織の運営
 商店街という組織は、明確なそして共通の目的を持ちながら、実態としては自然発生的な共同組織であるため、この組織の運営には難しさがあります。当然、構成員たる組合員の権利・義務についても公的組織のような厳しさはありません。さらに、商店街は中小事業者を中心とした異業種連携の組織であり、大規模事業者の加入も認めるという意味で、複雑な運営が要求されます。
 組織体の運営に必要な経営資源としてはヒト、モノ、カネ、情報があります。まず、組織の根幹をなすヒトの問題は、後継者やリーダーといった人材不足の問題として多くの商店街が共通に抱えています。とくに、組織運営やマーケティング活動に必要な知恵を担うのは人材であり、知恵がカネや情報の不足を補う側面もあるため、ヒトの問題は重要です。
  モノについては、店舗、販売すべき商品、加えてアーケードや街路といった内容としてとらえると、空き店舗の増大、店舗やアーケードの老朽化、街路の未整備、業種構成の不備、駐車場の不足、品揃えの不十分、といった質的な問題が山積しています。
  カネに関しては、潤沢な年間事業予算を有する商店街はそれほど多くありません。共同事業が利益を生んでいるような商店街では、さまざまな取組みにチャレンジしており、ゆとりある運営、魅力的な運営を行うためには、資金的な裏付けは是非とも必要となります。
  さらに新しい経営資源となる情報について、IT(Information Technology)革命では商店街の取組みは遅れています。ITという新しい言葉に惑わされている部分もあり、情報についてはもっと検討する必要がありそうです。  
  ② 商店街運営の意義
 商店街を運営することの意義は、商店街が果たすべき役割と責任を滞りなく遂行することと深く関わってきます。その役割とは、一つは消費者に対する役割と責任であり、もう一つは地域社会に対する役割と責任です。
a.消費者に対する役割・責任
 商店街は立地する地域の消費者に対して、少なくとも、生活を豊かにするための商品・サービスの提供を心がける必要があります。物品販売を中心として成立している商店街であればあるほど、地域の消費者のニーズを商店街全体としてとらえ、組合員全体で対応することを主眼とすべきです。
b.地域社会に対する役割・責任
  地域社会にとって商店街は中心的な役割を担っています。例えば、地域経済の振興、雇用の創出、といった経済効果に貢献したり、地域社会の行政、医療、教育、福祉、文化、娯楽などとの結合を図ることで、街づくりに大きな役割を果たしています。さらには地域の治安を守り、文化や伝統の継承・発展に力を発揮し、環境保護、美観の保持、といった点にも大きな役割を果たしています。 
 
(3) 組合運営上の諸問題
 組合運営上、第1人材不足の問題があります。自分の店の経営に加えて所属する商店街の運営にまで積極的に参加していくには、自店が繁盛し経営に余力がなければ難しいと考えられます。たとえ余力があったとしても、商店街を全体としてまとめ、リーダーシップを発揮し、将来展望を持ち、戦略的発想で挑戦できるような能力のある人材は簡単にはみつかりません。

  第2は、組合員の加入・脱退の自由の問題です。組合員が、自由に加入も脱退もできることによって、組合員と非組合員とが商店街の中に同居し、共同イベントの開催、共同施設の整備に足並みが揃わないことになります。

  第3の問題は、経済的基盤の弱さです。商店街という組織は、経済団体であるというよりも緩やかな人的結合体です。このため、この組織を維持・運営していくためには、経済事業としての共同事業を積極的に実施することが必要になります。商店街をより高度化し発展させるためには、資金的な裏付けがなければなりません。

  第4の問題は、環境変化に対する対応の遅れです。消費者のライフスタイルやニーズの変化が著しくなっています。物質的充足の達成、夜型生活への移行、家庭内調理の減少、環境・安全問題への注目増大、といった消費者の変化に、商店街がどれほど対応できているかは疑問です。

  第5には、経営理念・経営哲学の欠如があげられます。商店街がどのような理念でこれを運営していくのかを明確に表現できない商店街が多くあります。理念がなければ地域の消費者に対して何を訴えるか明らかではなく、また、組合員が共通した方針を持つことができません。理念や哲学を地域と構成員に対して訴え、相互に響き合う良好な関係を作ることが望まれます。

  第6には、商店街での事務局の設置がないことです。事務局を有しない商店街が多くあります。理事長の店を対外的な仮の事務局としたりして、業務に差し障りがでない対応や工夫は行われていますが、会合を開く場所や専任の事務局員がいない商店街では、役員の負担や犠牲は大きくなり、継続した活動も難しくなります。
 
2.街づくりと商店街づくり
(1)街づくりのルールと商店街
 街に活気を取り戻そうとする気運が、高まり、国の政策においては「まちづくり三法」のひとつとして中心市街地活性化法が制定されました。しかしそれより前の、80年代から、一定の地域に住む人々がより人間らしく、豊かに生活していくための共同の場をつくろうとする動きがみられるようになりました。「まちづくり協定」とか「街づくり憲章」、あるいは「街づくりに関する覚え書き」等の協定類が全国各地に生まれました。これらのほとんどは法律にも条例にももとづかないものですが、まちづくり条例を制定した都市も少数ながらあり、策定中の都市は増えつつあります。 協定を分類すると次のようなものがあります。
a.法律でも条例でもその協定が規定されていない、任意の「紳士協定」
b.国または自治体が作成した要綱等にもとづく協定
c.自治体の条例にもとづく協定
d.建築基準法にもとづく建築協定、都市緑地保全法にもとづく緑化協定

  街づくりのルールづくりについては、まず、自治体の承認等の有無にかかわらず「憲章型」の協定の制定を目指すのが、現実的であると考えられます。町内会・自治会を含む、「コミュニティー」の住民の大多数の合意に基づく地区のルールづくりに、商店街はその一員として、またその主体として積極的に関わっていくことが求められます。先行事例をみると、「憲章型」のまちづくり協定では、なんらかの街づくり組織が存在しています。この組織に商店街が積極的に参加し、「協定」等の締結や運用の要としての役割が望まれます。
 
(2)街づくりの組織と商店街組織
街づくり組織は、「住民主導型」、「住民商店街協調型」、「商店街主導型」があります。中心市街地等の商業地においては、「商店街主導型」が大半であると考えられます。いずれにしても、商業者に対して、意識を行動に反映させていく仕掛けを、商店街の実情に合わせてつくり出し、街づくりに対して積極的に関わることが、求められます。その仕掛けの第一段階は、商店街組織のなかに「まちづくり委員会」を設置したり、地区や地域のまちづくり協議会等の団体への参加あるいは連携などを通して、「協定」等の制定の「芽出し」をすることです。
 
3.商店街運営における組合員等の権利制限と義務
(1)組合員等の権利と義務
  ① 組合員の権利
   商店街運営における組合員の権利とは、振興組合法の範囲では、組合員が持分に応じて行う「持分払戻請求権」や「剰余金配当請求権」などの経済的権利を受ける権利と、総会などにおいて行使する「議決権」や「選挙権」などの組合の運営に関与できる権利があります。
  また、組合への参加により期待される権利としては、組合が行う各種の事業に伴う利益享受があります。組合の目的は、例えば、組合が行う販売促進事業による組合員店舗の顧客の参加、利用と利益の享受が組合員の権利としてあげられます。組合事業による組合員店舗の顧客動員や売上高の増加への反映等の利益享受も組合員の一種の権利といえますが、これらの事業成果の有無は、組合員の対応によることになります。これらの事業は必ずしも直接的な顧客動員や売上高の増加を目的としたものばかりではなく、また、商店街の顧客動員を目指すものの組合員店舗への誘導はそれぞれの自助努力によるとしたものも少なくありません。環境整備や共同施設の設置事業も同様です。これらの事業は様々な目的をもって行われるため、必ずしもすべての事業について直接的な利益を受けられるとは限りません。また、直接、間接に利益を享受する権利はあるものの、その受けた権利を顕在化させるかについては、それぞれの組合員の姿勢と資質にあるといえます。
  ② 組合員の義務
  組合員の義務については、組合への出資、組合運営や事業実施のための経費や施設、設備の使用料等の「負担義務」の経済的義務とともに、事業、組織運営に関する組合員としての種々の取り決めに関する「遵守義務」があります。 組合への出資について負担を拒否する店は、自動的に未加入店、非組合員となります。この非組合員は、多店舗化するレギュラー、フランチャイズ等のチェーン店や後継者もいない副業店が多く、増加の傾向にあります。使用料等の負担に関しては、駐車場、会議室等の施設の使用料に限らず、各種の施設整備やソフト事業に関する事業賦課金、運営費等に充てる通常賦課金などの各種の費用に広がります。このうち、通常、環境整備事業の費用負担に問題が多くみられます。非組合員の店舗前及び周辺部分については、整備から除外することが困難な場合が多く、全体として工事を行います。組合員は事業賦課金として事業費を負担し、非組合員に対しても、環境が整備され、その益を享受しているため、負担金や使用料などの名目で費用負担の協力を要請することになります。しかし、当初からの非組合員に加えて、整備後に脱退した本組合員も同様であリ、中には、組合員が負担すべき事業賦課金の負担を拒否することもあり、組合員としての負担義務を履行しない例もあります。
  「遵守義務」については多岐にわたります。まず、組合が行う各種の事業への参加、協力への義務があり、任意参加もありますが、通常の事業については組合員全員の協力、参加が原則です。しかし、組合の構成員が「副業店」、「生業店」、「企業店」に分化する中で、組合員それぞれの能力や体力が異なるため、有志による事業も増えています。
 
(2)商店街運営の権利制限と義務
  ① 出資、出資金

 商店街振興組合の設立または参加に際して、組合員は、1口以上を出資しなければなりません。出資1口の金額は、均一でなければならず、1組合員の出資口数は、出資総口数の100分の25を超えてはならないとしています。 途中での参加、出資に際しては、出資金の時価評価が異なるため、出資金の額面は定額としつつ1口の時価を変え、払込むこともあります。

② 組合員の資格要件
 組合員の資格要件としては、まず、「商店街が形成されている地域で、組合の定款に商店街の区域と定められた区域において、小売商業又はサービス業に属する事業、その他の事業を営む者等」でなければなりません。しかし、定款で別途定めれば、これらの者以外の者を組合員とすることができ、商業等を営まない建物所有者や地主が組合員として参加する組合が増えています。 また、組合員の立場はともかく、まちづくりや共同施設の整備に係る事業賦課金については、組合員である営業者に代わって非組合員の建物など所有者が負担している例がより多くなっています。
③ 組合の債務に関する組合員の責任、義務
「組合員の責任は、その出資額を限度とする」としています。 しかし、各種の事業の実施に伴い、組合は、公的、民間機関などからの借り入れに際しては、組合役員全員が連帯による債務保証を行うことが通常です。
  一方、役員でない一般組合員においては、経費が賦課されるものの、債務を保証するものではありません。このようなことに加え、予告及び脱退時期の縛りはあるものの、自由な脱退ができることから、前述の組合の債務に関する組合員の責任、義務は、一般組合員には及ばないと考えざるを得ません。
④ 組合員の権利義務の停止
 組合員の権利義務の発生は組合員の加入により発生し、組合員の権利義務の停止は、組合員の脱退によって生じます。組合員の脱退については、組合員の意思で脱退する“自由脱退”と「組合員たる資格の喪失」、「死亡または解散」、「除名」などによる“法定脱退”があります。脱退による組合員権利の停止は、比較的問題は少ないものの、義務の停止が問題となります。 法では、「組合の財産を持ってその債務を完済するに足りないときは、組合は定款で定めるところにより、脱退した組合員に対し、その負担に帰すべき損失額の払込を請求することができる」としています。
  しかし、共同施設の特別負担金などについては、“その負担に帰すべき損失額”があいまいであるケースが多く、持分の払い戻しを停止したり、出資額を超える損失額の払込請求するに至らないのが現状です。
 
4.商店街振興組合と組合員等の権利制限・義務
(1)組合の法的位置
  ① 法人化
 商店街振興組合は、商店街振興組合法に基づく法人です。 商店街振興組合は、商店街振興組合法によって法人性が認められているため、個々の構成員とは独立して、法的に社会を構成する一分子となることができ、様々な社会活動を独自に行うことができます。
② 非公益性・非営利性
 商店街振興組合は、一部公益の増進に寄与する側面があるものの、純粋に公益の実現のみを直接の目的とするものではなく、金銭的な利潤を追求してこれを構成員に分配することを目的とするものでもありません。
③ 公示性
 商店街振興組合は、対外的に独立して一つの法的主体として法律行為を行うことになるため、法人の存在、内容を登記して公示しなければなりません。
④ 事業限定性
 商店街振興組合は、商店街振興組合法第1条が掲げる目的実現のために、法人格を付与され、権利義務の主体となることを認められたものであり、その活動の範囲(事業)もその目的実現のために必要な範囲に限定されます。
⑤ 組織性
商店街振興組合は、構成員の人的結合体です。
 そのため、組合の基本的事項を決定する総会、業務執行機関である理事会、その構成員である理事、会計監査の機関である監事、理事会の決議の実行及び常務の決定執行機関である代表理事などの機関を設けなければなりません。
 
(2)組合と組合員の法的関係
 組合員たる資格を有する者は、組合に加入を申込み、組合の承諾を得て出資金を払い込むことによって正式に組合員としての地位を取得します。
  加入については、組合員としての資格を有するものが自由に加入できる「任意加入」は、商店街振興組合法の根本原理であり、組合は正当な理由がないのに加入を拒絶したり、あるいは従前の加入条件より困難な条件を付してはならないとされています。
  逆に、組合への加入を希望しない者については、法律で加入が義務付けられていない以上、いかなることをもってしても加入を強制することはできないことになります。
  加入した組合員は、組合員として組合に対し様々な権利を有し、また義務を負うことになります。
 
(3)組合員と組合員の法的関係
 組合に加入した組合員は、定款・規約や総会、理事会の意思決定に従い、組合としての事業の実質的な執行は代表理事に委ねることになります。
  組合員は出資額に関わりなく、一人一票の選挙権、議決権を持ち、これを行使することによって組合運営に参加する機会が与えられます。