20世紀はグローバル時代といわれた。ところが21世紀になった途端、その流れはどうも逆の方向に向き出したように思える。ローカルとか、コミュニティを大切にしなければならない時代の到来である。
私たちがこうやって生きている世界の生成理論に、<宇宙は呼吸している>という考え方があるという。長い時間を掛けて宇宙は膨張し、それが終ると今度はやはり長時間で宇宙は凝縮していく、その膨張と凝縮を繰り返すのが宇宙だ、という訳だ。21世紀に入った途端に、様々な変化がいろいろな所に現れているが、私には凝縮宇宙への転換点のように予感される。比喩が少し大きすぎる気がしないでもないが、例えばファーストフーズが20世紀に生み出された巨大な産業のコンセプトであれば、もうその時代は終って逆のコンセプトが現れたのが21世紀である。例えば、スローフーズがそれである。早いサービス、均一な味付け、大量の提供と消費、マニュアル化などの時代から、21世紀になるとスマート(スピードだけでなく、お客様の気持ちに合わせた知恵のある対応)なサービス、文化に根ざした個性的味付け、その地域にしかない素材を生かした限られた提供と消費、マニュアルを越えたヒューマンなサービスの時代・・・というまったく逆の状況が受け入れられるようになってきている。ハンバーガーは飽きられたか、という命題があるが、飽きられたのはハンバーガーだけでなく、そのサービスやシステムにあきれ出しているのではないか、と私は思う。
グローバルビジネスとコミュニティビジネスという考え方がある。ウォルマートやカルフールはグローバルビジネスであろう。日本の各地にある商店街の小さな店々は、当然地域社会に立脚したコミュニティビジネスである。グローバル企業は、グローバルに生産されたものを、宣伝やマーケティング力によって市場に押し込む。安売りはその典型だ。そしてしばしば、低コスト生産は後進国の搾取の上に成り立っているといわれている。しかしコミュニティ企業は問題解決型である。地域が抱えている問題を発見し、その答えを創造し、解決させる。地域の安全の問題、福祉の問題、子育ての問題、それらは豊かで幸福な地域社会を生み出す為に機能する。商店街でお年寄りのデイサービスを行ったり、鍵っ子を預かって、パソコンなどが学べる環境を提供する。老後の安心を支え、子供の非行化を防ぐ社会機能を商店街が担っているのである。環境問題への取り組みも、コミュニティのエコリサイクルセンターとなって、ゴミのリデュース、リユース、リサイクルの拠点を担う。グローバル企業ではとてもこのようなきめの細かいサービスはできないだろう。それだけでなく、市場に旨味がなくなればさっさと店を畳んでしまうだろう。しかし、地域と共に生きてきた商店街の老舗ではとてもこんな非情なことはできない。逆に、商店街と地域のNPOが組んで、市場性はないが地域の豊かな文化の為に市民が商店を支えるコミュニティ・サポーテッド・ストア(CSS)という発想も生まれている。その街にしかない生活技術の店、雑貨や織物や郷土出版などの店を市民が会員になって支える仕組みである。
かつての地域商人たちは、豊かな地域づくりのために積極的に学校や橋などのインフラ投資を行った。PFIをとっくにやっていたのである。例えば、明治時代の足利商人は"友愛義団"という組織を結成し、専門学校を造り、鉄道を敷き、地域産業を興した。フレンッエ商人顔負けの活躍したのだ。21世紀商人は、店だけでなく"街"や"コミュニティ"を。気概家ならぬ"起街家(きがいか)"こそが、未来商人のターゲットだと私は期待し、夢みているのである。 |
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兵庫県相生市の本町商店街振興組合に、お年寄りのためのコミュニティ施設「よりあいクラブ旭」が今年3月オープンした。レストラン、弁当宅配、野菜の販売、ミニデイサービスなどを手がけ、「食」を通した地域のお年寄りの交流の場となっている。
この施設は相生市と赤穂市で化学肥料と農薬を使わない野菜の生産を行う、NPO法人ひょうご農業クラブ(増田大成理事長)が中心となって立ち上げた。オープンにあたっては空き店舗の改装費用などにコミュニティ施設活用商店街活性化事業を活用。本町商店街のバックアップも得て、地元の主婦らを中心としたスタッフ20名が運営にあたっている。
現在、レストランの定食(580円)では1日平均20食、弁当宅配(550円)では30~40食の注文がある。材料には市場を通らない有機無農薬の野菜を使用。肉や魚も業務用の食材は一切使わない「家庭料理より家庭らしい」メニューが人気を集め、事業所からの注文、地域の行事の際など、少しずつ利用の輪が広がっている。
20名のスタッフうち9割が60歳以上、8割がボランティアでの協力である。「地域の人材に活躍の場を作ることができれば。」(増田氏)との考えから、NPOひょうご農業クラブは側面サポートにまわり、地元スタッフが主体的に事業運営に取り組んでいる。
印象的だったのは、スタッフから聞いた「ここができたことで、私たちも元気づけられた。」という言葉。そして、お客としてレストランを訪れるお年寄りの楽しそうな笑顔である。コミュニティビジネスという言葉が聞かれるようになって久しいが、難しい定義よりもコミュニティに1つでも多くの笑顔、幸せを作り出すこと。これがコミュニティビジネスの原点だと改めて感じさせられる取材となった。(取材:研究員 川原 舞子)
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