平成14年度 全振連で行った商店街近代化研究会報告書を要約したものです。
(商店街近代化推進シリーズ48)
 
1.商店街における安全性とは
(1)何故、安全性
 わが国はこれまで世界的にみても最も安全で、かつ安心して住むことのできる社会でした。しかし、社会環境の変化、社会的背景の変化に伴って必ずしも 安全な社会とは言えなくなりつつあります。社会の空間の中で重要な地位を占 めている商店街についても同じことが言えます。安全であって、心理的に安心感をもって歩くことのできる商店街を目指すことは、基本的に重要な課題です。 今回この問題を取り上げるのは、基本に立ち返るという意味と、環境変化への対応という2つの意味においてです。
 商店街という場合、それを構成する個店と商店街とは、切っても切り離せない関係にあります。しかし、主として商店街の安全性に絞り、商店街との関係 において、どうしても触れなければならない場合には、個店の安全性について も考えるという立場を取ります。
 次に商店街の安全性という場合、大きく次の2つが考えられます。
 第1は、商店街に来る消費者、つまり来街者にとっての安全性です。
 第2は、商店街にとっての安全性です。
 
(2)安全性が求められる社会的背景
  ①急速に進む高齢化

 

 商店街の安全性が強く求められる背景の第1に高齢社会の到来があります。高齢者が増加することは、足腰の弱った人、視力や聴力の弱い人たちが増加する ことを意味します。青壮年の人にとっては、なんでもない道路の凹凸や段差も ころぶ原因になりますし、置引きや引ったくりなどの対象となります。
  ②犯罪の多発化

 

 長い間、世界でも犯罪に関しては、最も安全であったわが国も、必ずしも安 全な社会とはいえなくなりました。最近多発しているATM機(現金自動受払 機)をブルドーザーで破壊して、中の現金を奪いとるといった犯罪に端的に現 れていますが、犯罪の国際化、世界化が進んでいます。路地や女性を狙ったひったくり、置引きなども少し前には考えられなかった犯罪ですが、今や日常化し てきています。
  ③安全性と快適性の要請の高まり

 

 商店街がこれまで担ってきた役割、これから期待される役割を簡単にみると 次のようになります。
 第1は、それほど豊かでなかった時代です。商店街は何よりもモノ(商品)と お金との交換の場でした。品物が豊富にあり、値段が安ければ商店街として十 分でした。いわば商業機能をその主な役割とした時代です。
 第2は、商店街に商業機能プラスアルファの機能が期待される時代です。物 質的に豊かになることにより、商店街は単にモノとお金を交換する役割を果た すだけでは、消費者にとって魅力ある存在ではなくなりました。消費者を惹き つけるためには、商業機能の充実だけでなく、その商店街の立地、性格、規模 に応じて、コミュニティの核としての機能、レジャー・レクリエーションの機 能、生活やファッション、文化に係わる情報機能、生活文化機能などのさまざ まな機能を持つことも必要です。商店街に商業機能に加えて、さまざまな複合 機能が役割として期待される時期です。
 そして第3が、高齢化時代です。第1、第2の時期は人生に例えれば少年期 から青年期に当たります。また、人口構成からみても高齢者の数も少なく、そ の割合も小さかったのです。本来は、高齢者に配慮した商店街をつくり出す努 力が必要とされましたが、そこまで手も気も回りませんでした。  これからは消費者として多数を占める高齢者が安心して行け、歩くことがで きる商店街がいま求められています。安全性と快適性(アメニティ)を基礎と した複合機能化された商業の場が必要です。

(3) 商店街の安全性

  商店街への来街者にとっての安全性、商店街自体にとっての安全性という2 つの視点からの商店街の安全性を考えると、その内容は、その性質からみて、大 きく次の5つに分類することができます。

  • 犯罪からの安全   暴力犯、窃盗犯、性犯罪、経済犯、放火犯、侵入犯
  • 火災からの安全   放火、失火
  • 交通面での安全   交通事故、転倒、落下
  • 快適であることによる安全   乱雑、不潔、非衛生、騒音
  • 安心感   暗い、寂しい
     
  ①犯罪からの安全
   暴力犯は、実際には商店街では極めて稀と思われますが、将来的には欧米の 一部大都市等で多発しているひったくりや強盗(とくにマドリッドやバルセロナ)の危険性は、ないとはいえないでしょう。
 スリや置き引きなどの窃盗犯は、商店街以外ではわが国でもかなり増加して います。商店街でも増加する可能性の大きい犯罪です。
 性犯罪のうち痴漢行為は、電車の中などが中心ですが、商店街でも夜の女性のひとり歩きの際などには可能性があります。風紀紊乱は一部の夜の飲食街な どむしろ商店街自体の問題として対処を考えるべきです。
 キャッチセールスなどの路上での違法な勧誘は、人出の多い路上が狙われ易 いので来街者の多い商店街は、注意する必要があります。また、違法催眠商法 などは、空き店舗を利用して行われることが多いので、被害者が出ないように 早目に対応することは十分可能です。
 商店街における犯罪の中で最も危険で起こり得る可能性の大きいのが、放火 です。放火からの安全を図るには、ゴミが目に触れないようにしたり、清潔・整 頓を心がけることが肝要です。
 商店や建物内部に侵入して行われる強盗や空巣などは近年、増加しています が、最も一般的なものは万引きです。これらに対しては、個店としての対応が 中心となりますが、商店街全体としての対応策も十分考えられます。
 以上にみたような商店街を舞台として行われる可能性の大きい犯罪は、商店 街の立地特性、つまり駅前型、繁華街型、住宅地型、ビジネス街型、ロードサ イド型などによっても異なりますし、広域型、地域型、近隣型などの商店街の タイプによっても異なります。立地特性やタイプに応じて対策を考えることが 肝要です。
  ②火災からの安全
   商店街における人災の中で最も被害も大きく、その安全性の確保が重要なの は、火災です。①に述べた放火もありますが、さまざまな形での失火もありま す。とりわけ商店街に出されたゴミや清掃が行き届かないことが原因となって、 タバコの火の不始末による失火も可能性としてないとはいえません。こうした失火は清掃、整頓、清潔によって防ぐことができるものです。失火の中で多いのは、個々の商店での火の不始末や漏電などによるものです。これらは個店と しての注意や、早期発見がその対策となります。
  ③交通面での安全
   自動車による歩行者の事故は、歩車道が未分離の場合当然多い事故であり、こ れまで色々と対策は施されていますが、その対策は最も肝要なものです。
 自転車による歩行者のケガも、その対策が大事です。また自転車は、自動車 に対しては被害者の立場になることが多く、これも対策が重要です。さらに自 転車が無秩序に放置されることにより、路上の障害物となることによる事故も 少なくありません。特に身体の不自由な人や車椅子、乳母車や幼児を連れた人 にとっては大きな問題となり、対策が望まれます。
 ころぶことによるケガは、高齢者が増大するだけに、今後益々大きな問題と なるでしょう。段差や道路の凹凸、雪や凍った道路、雨で滑りやすい路面など 道路の状態によってころんでケガをすることは、対策によってかなり防ぐことができます。  
 構造物を原因とするケガにはハミ出し看板、老朽化したアーケードが強風に よって崩壊することによるケガなどが考えられます。特に老朽化してちょっと したことで崩壊する危険性のあるアーケードは、対処が望まれます。
 イベントで人がたくさん集った時に起こる事故やケガの問題も、忘れてはなり ません。
  ④快適であることによる安全
   路上にゴミや空き缶などがない清潔な商店街は、犯罪の無言の抑止力となり ます。
 無秩序に放置された自転車もなく、はみ出し陳列やはみ出し看板のない通りでは、歩行者のケガも少なくなります。
 ゴミがすぐに回収され衛生的な商店街は放火などもしにくく、歩きやすいこ とによってケガも少なくなります。
 騒音の少ないことも、犯罪や事故を間接的に防ぐのに役立ちます。
 商店街を明るくすることが、犯罪を起こりにくくし、事故などによるケガの発生防止に役立つことはいうまでもありません。
 全体としてアメニティに富んだ(快適で魅力に富む)商店街にすることは、商 店街の安全性を高める道です。
  ⑤安心感
   安全であると同時に、安心感をもってまちを歩くことのできる商店街にする ことも大切です。不安を抱かせる商店街とは、昼でも暗い、人通りが少ない、衰退感がある、人の監視の目が届かないなどの条件のあるところです。明るく、人 通りも多く、にぎやかで監視の目が行き届いている商店街は、安心して歩くこ とができます。安心感のある商店街は、安全でもあります。
2.安全な商店街にするためには
(1)ソフト面での対策
  ①地域との連携
 

 急激な都市化の進展などにより全国的に画一的な生活スタイルが定着し、個 人の生活の重視とプライバシーの重視などにより、地域のコミュニティが脆弱 化して、地域への愛着心が薄らいできています。一方で、近年阪神・淡路大震 災などの災害や幾多の事件を通して、地域での生活の見直しや、コミュニティ の復活が叫ばれています。
 地域住民相互の支援が安全、安心な街づくりに必要となってくる傾向にあり ます。単に警察に頼るだけではなく、安全で安心な「まち」をつくっていくこ とは課題となっています。「まち」づくり、「地域整備」といったことは「防犯」 ということと大いに関係をもってはいるものの、まちの生活の快適性、安全性、 安心感を増すための安全性の確保のための対応策も必要となってきます。商店街は、地域コミュニティの一員であり、かつ街のインフラとして位置づけられるため、各種の団体等と一体で活動している例もあります。
 商店街が安全性確保のために連携をとって活動をおこなっている組織として、 防犯協会、PTA、町内会、行政、NPOなどがあります。

  1. 防犯協会  
  2. 防犯協会とは、昭和38年に任意団体として「全国防犯協会連合会」が設立さ れました。“安全で、明るく住みやすい社会の実現”を目指して活動を展開して います。
     全国防犯協会連合会は、一般防犯普及活動と全国の防犯協会や防犯ボランティ アへの支援活動を行っています。主に、“少年の非行防止”、“薬物乱用防止”、“暴力対策”を主要な活動としています。

  3. PTA
    • 子ども110番の家  
      多発する子供達を狙った犯罪を防止する為に、地域のなかで体制づくりを行っているものがあります。「子ども110番の家」は、子供達がいざという危険な状 況や事故などの際に、すぐに駆け込める場所を地域内に設置するものです。協 力する個人宅、あるいは商店などに、「子ども110番の家」というステッカーを 掲げておきます。

    • セーフィティネット東川口  
      埼玉県川口市では、平成14年に開催されたサッカーのワールドカップの会場 の埼玉スタジアム2002に近い住民が、「2002ワールドカップセイフティネット 東川口」を結成しました。試合当日は、相当の混雑が予想されるところから、警 察署、市などと情報や連絡を密にして混乱を防止する活動を行うことを決めま した。セイフティネットのメンバーは試合当日には、揃いのベストを着て身分 証を持って、駅周辺などの見回りを行いました。
  1. 町内会
    • 夜間の防犯診断  
      兵庫県姫路市では、自治会の役員、警察、市、専門家(コンサルタント)な どが一緒になり夜間の街を歩いて、実際に現地を観察し照明の照度測定などの 調査を行いました。それを基にして地図上に「安心な場所」、「不安な場所」を 記入して防犯診断マップを作成しました。

    • 津山っ子を守り育てる環境地図の作成
      岡山県津山市では、青少年の健全育成を進めるために、「環境地図」を作成し ました。実際に環境チェックリスト(暗くて危険なところはないか痴漢が出や すいところはないか、三世代交流など大人と子供が触れ合うことができるとこ ろはあるかなど)を作成して、市内の点検を行いました。点検項目は、防犯に 関することだけではなく、交通安全、防災、遊び、伝統文化など広範囲に渡っ ています。
  1. 行政 ・地域安全パイロット地区  
  2. 全国各地で指定を受け、防犯協会等を中心とした地域住民主導の地域安全活 動を展開しています。

  3. NPO
    • 「ガーディアン・エンジェルス」  街の安全確保及び犯罪防止活動、環境美化浄化運動などを、ボランティア的 に活動を行っています。
       日本においては、繁華街を中心として青少年の非行・犯罪防止活動、応急救護活動、環境美化浄化運動などを中心とした活動を展開しており、地域の人々 とともに活動を行っています。

 

②商店街としての対策
 
  1. 歩行者保護、優先  
    商店街、街に出向き、車等からの危険を感じることなく安心して買物等がで きる空間を創出することは、歩道の整備等のハード面からではなくソフト面か らの対策であり、商店街の一角を歩行者天国として自動車等の車両の進入を遮 断して買物空間を作っているものが多くあります。
     現在では、〈新宿地区・渋谷地区・浅草地区・蒲田地区・銀座中央通り・秋葉 原中央通り〉などで、日曜、休日の午後12時から午後5時ないし6時に実施さ れています。
     商店街として行われているものは、
    • 神奈川県横浜にある近隣型の「横浜橋通商店街」では、毎日午後1時から午 後8時まで歩行者天国にして来街者に安心して買物ができるよう実施してい ます。
    • 東京世田谷区の三軒茶屋にある茶沢通りの商店街「三茶しゃれなあど」では、 日曜、祝日に午後1時から午後5時まで歩行者天国を実施しています。 ・佐賀県の「松浦町商店街」では、“呼子の朝市”として毎日午前7:30から 12:00まで歩行者天国にしています。
    • 岩手県盛岡の「材木町商店街」では、4~11月の毎週土曜日午後から「よ市」 を開催しており、その際には商店街の通りを歩行者天国にしています。

  2. ゴミの回収  
    商店街においては、特に飲食店等で排出されるゴミの量は、一般家庭よりは るかに多いものです。ゴミが商店街の往来に放置されたままであると、悪臭を 放ち、あるいはカラスが突っつくなどで散乱するなど環境美化の面から問題も 多くあります。その中で、商店街独自で、ゴミ回収に取り組んでいます。

    • 「自由が丘商店街(振)」
       “クリーンな街づくり運動”に力を入れています。その一環としてゴミの自主 回収事業を行っています。行政に頼らずにゴミを効率よく自主回収するために、“共同集積場の撤廃”、 “夜間回収”を始めました。共同集積場は、一般家庭のゴミが混在しますので、マナーが守られにくい面が見受けられるため撤廃し、各店の前にゴミが出せる “個別回収”へと変更していきました。
       午前0時から朝5時(飲食店用)までの間に回収します。専用のゴミ袋は、商 店街の5軒の店で販売しています。深夜まで営業する店のために24時間対応の ゴミ袋自動販売機も設置しています。夜間回収は、夜の12時半までにゴミの回 収を実施しています。個店にかかる負担は区のゴミ収集より低額になっています。
       さらには、毎月4回程度、土曜、日曜に清掃作業を行っています。これは、「ダスターズ」と呼ばれるスタッフが、街路の清掃美化に努めています。これは、商 店街が取り組んでいる“クリーンな街づくり”というテーマに沿ったもので、外 見的に美しい街を目指すというだけでなく、暮らしやすく、環境にも配慮した 生活空間を創出しようというのが基本姿勢にあります。

    • 「エスプラナードアカサカ」  
      商店街で独自のゴミ回収を行っています。ゴミ回収業者と商店街で一括して 契約しており、各組合員に紹介していく形を取っています。

  3. 巡回パトロール  
     街の安全確保は、ひいては商店街の安全確保につながるものです。そこで、商 店街の自主的な活動で、自らの街を巡回してパトロールを行っている例として は、「自由が丘商店街(東京都世田谷区)」、「明大前商店街(東京都世田谷区)」 があります。
    • 「自由が丘商店街」  
      青年部を中心としたメンバー約40人で構成された「パックス」という自警団 が「自由が丘商店街」にあります。  現在では、毎月第三金曜日の21:00~23:00の間、ユニフォームを着用して商 店街内をパトロールし、無許可で営業している露天商や未成年者への注意や呼 びかけを行っています。また不法に設置されている看板を撤去したり、危険な 行為を見つけた時は直ちに110番通報をするなどの活動を展開しています。
    • 「明大前商店街」   
      平成13年に、当商店街のメンバーを中心にして10名ほどで、「明大前ピース メーカーズ」という自警団が結成されました。  朝、昼、夜間と日に三回の巡回を行っています。毎朝、近隣の小学校の通学パ トロールを行ったり、昼間は、若者や学生達が住宅街をパトロールしています。

  4. 落書き防止
     商店街で、環境の美化及び快適性を保つということで、商店街内の店舗の シャッター、塀、壁、電柱などに心ない悪戯が横行していることが目につきま す。そこで、商店街自ら、商店街の環境浄化を図るべく落書きの防止、消去作 業に取り組んでいます。
    • 「下北沢南口商店街」  
      下北沢南口商店街では、商店街に点在している落書きを消す「落書き防止活 動」を行いました。
       “少しでも汚れの少ない街に”ということで、地域あげての取り組みを行って います。消去する方法は、プロの職人からあらかじめ手ほどきを受けて、刷毛、 ローラー、スプレーなどを使用して行いました。